風
夢未リト
どこまでも走ってゆく、君を見ていた。
目を離したら今にもどこかへ行ってしまいそうで、私も走り出した。
だけど、追いかけてみても私には速すぎて、
?もうとしても、この手の中に収まることはなく。
いつしか私は走ることを止め、立ち止まって、
広い空の中にぼんやりと彷徨う雲を、ただ眺めていた。
ふいに、どこからか聞こえてきた、
それは空気を切り裂くかのように鋭く、心に響く――
私はきっと、この音を待っていた。
冷たく、あたたかい、この風の音を。
そう、君はまるで風のよう
大空を、どこまでも駆ける風のよう。
唐突にふき過ぎては、
ただ彷徨う私の背中を押してゆく。
やがて風は去り、遥か遠くへと旅立ち、
雲は流れ、大空に溶けてゆく。
それでも、私は耳を澄ませる。
目に見えなくても、ずっと聞こえているだろう、
大空を舞う風の音が、
自由に走る君の音が。
いつかまた巡り会えたなら、今度は立ち止まらずに走れるだろうか。
そうしたら君についてゆけるだろうか、
君と、同じ景色を見られるだろうか――
――今はまだ分からないから、
今日もこの音とともに走ってゆこう。