恋物語
ふっきー
8月某日。
今日はとあるドームで私の大好きなバンド、「BANK OF CHICKEN」のライブが開催される。何ヶ月も前から手に入れたチケットを見ては一人でニヤニヤしていた。ニヤニヤしていたのは一人だが、ライブに参戦するのは私一人ではない。同じくバンク好きのクラスメイトと二人での参戦だ。
ライブが始まるのは19:00だが、バンクグッズの物品販売があるため、14:00に駅前に集合することになっている。たくさんグッズを買うため、たんまりとお金は用意してきた。いざ、出陣だ。
駅前に到着。相手はまだ来ていなかった。
「スマホでもいじろうか…」
ーーと、数分後、
「遅れてごめーん!」
と、向こうから声がした。
「次はちゃんと来てよねーー」
「わかってるってー」
やっと相方が到着。ちなみに言っていなかったが彼は同じクラスの男子である。BANK好き、ということで会話が弾み、今日一緒に来ることになったのである。
「じゃあさっそくグッズ買いにいこうぜ!」
「そうだねー!」
と、グッズ売り場へ移動する。するともう既に長蛇の列ができていた。
「うわ…人一杯だな…ここから販売のテントすら見えねえ」
「これは結構待たないとだねー…しりとりでもしよっか?」
「なんでしりとり…まぁいいけど…きつつき」
「なんできつつき…バンクって言ってくると思ったのになぁ…ポッキーいる?」
「いやなんとなく頭に浮かんだんだよ」
と彼は笑いながら言う。
「おう…ありがと」
と2人でポッキーをかじる。
「…」
「…」
「シュールだよな…」
「うん…」
「あ、そろそろみたいだぞ」
見ると、並んだ当初は見えてすらいなかったテントが目の前である。そして私たちの番になった。
「じゃあ俺はバンクTシャツと帽子で。」
「私もTシャツと…タオルで!」
と、無事にグッズを購入することができた。
「早速Tシャツ着てみようよ!」
と、着てみた。
なかなかいい感じだ。
「おー、似合ってるよ~!」
「サンキュー!Tシャツお揃いでなんかペアルックみたいだな!」
ペアルック…。ドキッとしてしまった。
それもそのはずだ。私は彼が好きなのだから。初めはバンク好きということで話し始めたが、今や私はバンクファンであり、彼のファンでもあるのだ。彼と一緒にいると、本当に心が安らぐ。そして何より彼のバンクを語る時の笑顔。この笑顔に勝る物は無い。そんな笑顔を見られる彼女になりたいなー…と最近思うのだ。
ーーそしてあっという間にライブが始まった。
「どーもーー!バンクオブチキンです!」
「今日は楽しもうぜぇー!」
「「「いぇーーーーーい!!!!」」」
もう初っ端から会場の熱気はハイボルテージだ。私も彼も負けずに叫ぶ。
「「いぇーーーーーい!!!!」」
「それじゃ1曲目!天球観測!!」
ーーそして圧巻のステージが始まった。
「「「うぉういぇいいぇいはあーーん!!!」」」
ーー会場全員で叫ぶ。会場のみんなと手を繋いでいるような気がした。そして彼とも。
ーーそしてあっという間に時は流れーー
「それじゃあラストの曲やります!You are here!」
なんと、新曲である。私は歌詞を噛み締めながら、最後の唄を聞いた。
ーー出会えば必ずさよなら そこから伸びた時間の上ーー
ーーまた会いたい 会いたいよ もう会いたい 会いたいよ 君がいるのに いないよ 君の昨日と明日に 僕もいたいーー
……私も。私だって…!
「…さっきのしりとりの続き。」
「え?なんで今更…」
「そんなのどうでもいいの!きつつき…だったよね?」
「あ、ああ…」
すぅーっと息を吸い込む。彼との思い出が蘇る。まだあまり日数は経っていないけど、今日一日だけの思い出でも十分だ。
「君の昨日と明日に私もいたいです。どうか、いさせてください。」
会場のまだ覚めやらぬ熱気が、私達をじんわりと、暖かく包んでいった。