Happy with you

 

       夢未リト

 

 

 いつものように、夕焼け色に染まる空を見ていた。

 校舎の最上部――屋上から見える空は、電線や他の高い建築物の邪魔がなくて気に入っていた。春が近づき暖かくなってきた空気の中、小さく欠伸をして目を閉じる。ほどよくまどろんできたその時に、屋上の扉が開いた。

「ソラ」

いつも通りの時間。自分を呼ぶ声のほうへと顔を向けると、幼馴染みの天野が立っていた。ゆっくり伸びをして、起き上がりながら天野に話しかける。

「いつも几帳面だね……ありがとう」

そう言うと、天野は少し困ったように眉をひそめて言った。

「だって放っておいたら、ずっと寝てるし……さ、帰ろ」

すっと差し出された手を掴んで、まだ少し気だるい体を起こした。

 帰り道は、いつも大体とりとめのない話をしながらゆっくりと歩く。家につく頃には暗くなっているのがほとんどだ。

「……ソラ」

唐突に名前を呼ばれ、少し驚いて相手を見上げた。逆光で表情が見えにくくなっている。何、と聞くと、天野はこう言った。

「あのさ、もう来月から二年だし……部活とか考えてみれば?」

天野がそう言ったのは、きっとぼんやりしている自分を心配してのことだろう。昔から真面目で細やかな、天野らしい気遣いだ。でも……

「いや」

「またそれか……」

既に何度目かになる言葉を返すと、天野は目を閉じて小さく息をついた。

「何で?部活とか……そんなに嫌いだったっけ」

そう聞かれ、少し考えてから、そうじゃない、と返事をした。すると天野は、

「高校生活残り二年……タイムイズマネー、時間は有効に使わないと。」

と、こう言った。そして、

「それとも、ソラは何かしたいこととかある?」

と聞いてきた。

 もうすぐ沈む太陽が、真っ赤に輝いている。

 しばらくそれを見つめ、立ち止まって言った。

「……空を」

少し前で立ち止まって、天野がこちらを振り返った。

「屋上から空を見ると……なんだか、落ち着く」

普段あまり喋らないせいで上手く見つからない言葉を、どうにか繋ぎあわせていく。

「だから、……どうせ時間を使うなら、もっと見てたい。……それに」

なぜだか自分の心の中の思いを、今感じていることを、伝えたいと思った。

「……天野が、いつも迎えに来てくれるのが、嬉しい」

「え」

夕日に照らされた天野の驚いた顔が、少し朱に染まる。――もう少しで、伝わるだろうか。

「だから……もっと、一緒にいたい」

 太陽が沈む瞬間のやわらかな光が天野を照らし、暗がりでもあたたかな表情がよく見えた。

 ――自分の時間の使い道を決めるのは、自分。……だけど、きっと一番大切な時間は……。