線香花火
キャラメル
「うめーっ!」
「夏と言えば西瓜だけど、蜜柑もいいよね」
私と樹は縁側で蜜柑を食べていた。襖と畳の部屋を風が駆け抜けると、風鈴がチリンと音を立てる。ゆったりとした時間の流れと蜜柑の程よい酸味は、私たち二人を癒してくれた。
樹は私の一つ下。今日、私は彼の勉強のお手伝いに来ていた。この蜜柑は樹の兄、冬馬からの差し入れである。冬馬は私の同級生だ。十二月上旬生まれである彼は、弓道部に所属している。私が彼の誕生日を覚えているのは特別な感情を抱いているからだ。ふと、樹は一枚の広告を見せながら、兄に言った。
「な、祭り行こうぜ!」
樹は、次々とお店を回り、走り抜ける。
「勉強はどうしたんだよ、まったく……。」
「まぁまぁ、三ページ進んだんだよ?」
「あの時間に何してたんだ、お前ら」
呆れる冬馬と私はゆっくりとあとを追う。私のペースに合わせてくれているのか、ただ早歩きをしたくないだけなのか、どちらかは分からないけれど、素直に嬉しい。
樹が私たちに手を振る。屋台を通り過ぎながら、彼が私に、不意に問いかけた。
「なぁ、お前、誕生日いつ」
「十一月の上旬だけど」
ふーん、と返事を返す彼。覚えていてくれるのかなと少し期待するが、日にちまで聞かないところを見ると何とも言えない。夜空には赤い星が輝いていた。
帰りに近くのホームセンターで花火を買った私たちは、広い場所でろうそくに火を着けた。冬馬は用事があるからと一旦帰ってしまったが、兄を気にも留めず、吹き出し花火をぐるぐると振り回し始める樹。私はろうそくの前で、線香花火の新記録に挑戦していた。
しばらくして、冬馬が戻ってきた。そして私の隣に座る。彼の手には紙が握られていた。
「ちょっと、見てて」
彼はそう言うと、手に持った紙をろうそくの火で炙った。ほんのりとした蜜柑の香りとともに、白紙に文字が浮かび上がる。
《好きだ》
たったの3文字。冬馬はふいっと顔を逸らす。どうやら私は、不器用な彼に射止められてしまったらしい。時間が止まったかのような静けさの中、私の線香花火がぱっと弾けた。