君といた世界

    
彼のいない世界から、 彼女はようやく抜け出した 目覚めた彼女の瞳の中に うつる世界はまだ曖昧で
ショルダーバッグをかけ直して
ほんの少し、迷いながらも
歩き始めた彼女の腕には
美しく輝く、約束の腕輪。

遠く浮かぶ幾千もの扉を
訪れ去って、また繰り返し
何日、何月、何ヵ月、
探した日々は重なって

いつもと同じ道の途中、
ふいに聞こえた懐かしい声
たどり辿って見つけた扉を、

少しだけ、開き――

近付いた扉の向こう側、
聞こえた、楽しそうな人々の笑い声。
見えたのは、探し続けた彼の姿と、

「何も付けていない」彼の腕。

彼女はまだ気付かないまま
狭い隙間からは見えなかった、
大切そうに飾られた
美しく輝くその腕輪に。

振り返らずに真っ直ぐに
歩き出した彼女の腕から、
落ちた腕輪は今も輝いて――