陽炎の立つ午後に

 

陽炎の立つ午後に幼子は

 

如雨露を抱いて庭に出た

 

重みによろけた靴先の

 

乾いた地面に時を待つ穴

 

 

 

如雨露を脇に置きしゃがみ込む

 

真白なくぼみを真上から覗く

 

自ら作った陥没に住む

 

孤独な主の姿は見えず

 

 

 

幼子は手を伸ばし

 

彼の靴に丁度攀じ登ろうとしていた

 

鈍く光る蟻をつまみ上げ

 

擂り鉢の中心にそっと落とした

 

 

 

砂が高く跳ね上がる

 

這い上がろうとしてもがく小さな塊

 

白い燦めきを見つめていた彼は

 

気づけば闘技場に居た

 

 

 

場に満ちる残酷な歓喜に

 

彼もまた酔いしれ

 

一人の戦士が斃れたその瞬間には

 

身を貫く熱狂に任せて拳を突き上げた……。

 

 

 

擂り鉢は沈黙を取り戻していた

 

少年は立ち上がり

 

三歩先の向日葵の根本に水を注いで

 

家の戸口に向かって歩き出す

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