『陽炎の立つ午後に』
焦点の移動がめまぐるしい。遠くから見ていたものが、急に近くにきて、目が慣れない内に、また遠くに引き離されてしまう。何度も読んでいる中に、だんだん慣れてくる。すると、読者はもう熱い格闘場を経験することができるはず。感情が高ぶって、焦点が遠くなってから、読者を何事もなかったかのように、日々の生活に戻す。作者の非凡な才が窺える一篇。
『蝶』
これも作者の目線が面白い。死にかけの蝶を見て、同情をする。そして、ふと自分に考えをめぐらせ、この微かな「生」に怯える。作者の感情が繊細すぎる。
『沈黙』
『陽炎の立つ午後に』で「生」を発見し、『蝶』でその「生」に負けを認める。次に、この『沈黙』で「生」をどう捉えたか。題名の通り、この詩は静寂を保っている。どこにも、激しく焦点や感情が近くなったりするところは見受けられない。この静寂は、何も知らないことで保たれている。第二連の村の美しさを完結させているのは、何も知らない「美しい戦争」。だが、青年がいる限り、戦争は完結しない。老人にそう言われ、第八連となる。「その義務」とは何のことなのか。美しく戦争を完結することなのか。その秘密を知ってしまった今、美しく戦争を終わらせることはできないのではないか。ただ、その後老人は消え、青年はその村のことを忘れようとする。その『沈黙』が美しさを保ったのかもしれない。
しかし、何度読んでも、この詩は沈黙を保っている。
『詩』『ピエロ』
作者の感性にはいつも驚かされる。なにか、敗北感というものを始終感じる。それでいて、気分が悪くならない。自分の能力を直視して、そこから来る実直な姿勢がそう思わせるのか。
『宇宙と虫捕り網』
作者にしては珍しい。肯定が前面に出た作品である。何ともやさしい。