旅の途中
青年は地図をたよりに小さな村にたどり着いた
美しい村だった
木漏れ日がたまり あふれて
小さな家々の白い壁に遊んでいる
風景画のようだ・・・。
青年は嘆息し 村の中へと歩を進めた
そして気づいた
村にはひとりの人もいなかった
圧倒的な静寂が その村の美しさを完結させていた
青年は村の奥にたどりついた
そこは墓地だった
明るくゆれる野の草の中に整然と
白い石が並べられていた
墓石の影から一人の老人が姿を現した
この世のものではないようだった
老人は語った
数か月前 この村に戦争がやってきた
しかし 攻めてきたのでは兵士ではなかった
はじめはハチドリの姿をした偵察機が
次には銃を備えとびまわる兵器が
人々は殺されたことにも気づかなかった
そして相手の国の人々も自分たちが殺したことを知らない
涙は 一滴も流れなかった
あれは そう「美しい戦争」だった
老人は青年の目を見た
君がいる限り戦争は完結しない
青年は頑なだった
僕に、その義務はない。
老人は力尽きたようだった
その姿はみるみるうちに薄れ 消えた
青年はきびすを返し二度とその村を思い出そうとしなかった